「ゲームの相手に『IPを抜いた』と言われた。IPアドレスで住所や名前まで特定されてしまうのだろうか」。家族に迷惑がかからないか、どこまで知られたのか、不安が先に立つ方は多いのではないでしょうか。反対に、誹謗中傷を受けて相手を突き止めたいのに、何から始めればよいか分からないという迷いもあるはずです。
そこで本記事では、IPアドレスから分かること・分からないことと、個人が特定される仕組みを、総務省や裁判所の資料をもとに整理しました。被害を受けた人が使える正規の手続きと、期間の目安も分かるはずです。
あわせて、IPアドレスを知られたときに起こりうることや、VPNなどで知られにくくする方法と限界も同じ流れで解説します。
IPアドレスから分かること・分からないこと
IPアドレスから一般の人に分かるのは、その番号を割り当てた回線会社(プロバイダ)の名前と、国や地方などのおおよその地域までで、市区町村は外れることもあります。番地や家、契約者の氏名は、IPアドレスだけでは分かりません。
IPアドレスだけで分かる情報の目安は、次の表のとおり。
| 情報 | IPアドレスだけで分かるか |
|---|---|
| 回線会社の名前 | 分かることが多い |
| 国 | おおむね分かる |
| 市区町村 | 外れることがある |
| 番地・家 | 分からない |
| 契約者の氏名 | 分からない |
表はJPNICや、位置情報のデータを提供するMaxMindの説明にもとづく一般的な目安です。
分かるのは回線会社とおおよその地域
IPアドレスはインターネットにつながる機器に割り当てられる番号で、総務省は「インターネット上の住所に相当」と説明しています。ただし、これはたとえで、実際の番地を表す番号ではありません。
IPアドレスの割り当て先はJPNICのWHOISなどで調べられますが、出てくるのは割り当て先の組織、多くの場合は回線会社の情報です。JPNICは、直接の利用者のデータが表示されない場合もあると説明し、WHOISの情報をネットワーク管理以外の目的に使わないよう求めています。
番地や家、氏名までは分からない
IPアドレスから位置を推定するデータを提供するMaxMindは、その位置情報は家庭や個人、番地を特定できるほど正確になることはないと明言しています。同社のブログによると、示されるのは一般に80平方km以上の範囲です。
2011年に発表された研究も、位置情報のデータベースは国のレベルなら当てになるものの、市のレベルの正確さは保証できないと結論づけています。地図にピンが立っても、それは推定した範囲の代表点にすぎません。
1つのIPを大勢で使う回線もある
日本インターネットプロバイダー協会の2015年の資料によると、スマホの回線では以前から、1つのIPアドレスを複数の利用者で共用するのが一般的でした。同じ資料は、固定回線でも2013年ごろから、IPアドレスを共有するサービスを行う回線会社が増えたとしています。
共有のIPアドレスでは、回線会社でもポート番号という情報がなければ利用者を絞り込めない場合があります。IPアドレスだけでは1人に決まらないことも多いのです。
IPアドレスから個人が特定される仕組み
IPアドレスから個人にたどり着けるのは、どの契約者にどのIPアドレスを割り当てたかの記録を持つ回線会社だけです。回線会社は通信の秘密により記録を勝手に外へ出せず、本人の同意や、裁判所の命令・令状など法律にもとづく手続きを経たときに開示されえます。
氏名と住所を知っているのは回線会社
契約者の氏名や住所を知っているのは、インターネットの回線を提供する会社。回線会社は、IPアドレスと日時、共有のIPアドレスならポート番号も手がかりにして、どの契約者の通信かを探します。
一方、WebサイトやSNSの運営者の手元に残るのは、接続元のIPアドレスと日時などです。総務省は、Webサーバーのアクセスログで接続元のIPアドレスや接続日時を確認できると説明しています。
回線会社は通信の秘密で勝手に教えない
回線会社が持つ通信の記録は、通信の秘密として守られる情報です。個人情報保護委員会と総務省のガイドラインの解説は、本人の同意や裁判官の令状などがある場合を除いて、通信履歴を他人に提供してはならないとしています。
法律上の照会に応じて通信履歴を出すことも、原則として適当ではないという扱いです。一般の人がIPアドレスを伝えて問い合わせても、契約者を教えてもらえる仕組みにはなっていません。
裁判所の命令や令状があれば開示されうる
誹謗中傷などの被害を受けた人は、情報流通プラットフォーム対処法(2025年4月に旧プロバイダ責任制限法から改称)にもとづき、発信者の情報の開示を求められます。プロバイダに直接請求することもでき、応じてもらえない場合などに裁判所の手続きを使う流れです。開示の条件は、権利の侵害が明らかで、損害賠償の請求など開示を受ける正当な理由があることなどです。
警察は、裁判官の令状などの法的な手続きにもとづいて、捜査のために回線会社から情報を得られます。ファイル共有ソフトでも著作権者がプロバイダに開示を求める例が多く、総務省は「匿名で利用しているから特定されない」との認識は誤りだと注意しています。
被害者が相手を特定する手続きと期間
ネットの書き込みで被害を受けた人は、2022年10月から、SNSなどの運営者と回線会社への開示を1つの裁判の手続きで求められるようになりました。回線会社の記録は数か月で消えることがあるため、早めに相談することが大切です。
運営者と回線会社への開示を1つの手続きで
発信者情報開示命令の手続きは、総務省の資料によると次の順で進みます。改正前は運営者と回線会社に対して2段階の裁判をするのが一般的でしたが、1つの手続きにまとめられるようになりました。
- 運営者への開示命令と提供命令を申し立てる
- 運営者が回線会社の名前を知らせる
- 回線会社への開示命令と消去禁止命令を申し立てる
- 命令が出れば契約者の氏名・住所が開示される
プロバイダは原則として、発信者(回線会社の場合は契約者)に開示に応じるかどうかの意見を聞くことになっており、反論の機会があります。申立ては2023年の3,959件から2025年の10,072件へ増えたと、総務省の資料は伝えています。この制度は2026年6月から総務省の作業部会で見直しが議論されており、今後変わる可能性がある点にも注意してください。
東京地裁の審理は平均で約103日
総務省の資料によると、東京地方裁判所で2024年12月までに終わった発信者情報開示命令の手続きの審理期間は、平均で約103日(概数)でした。2019年に終わった従来の訴訟の約142日より短くなっています。
ただし、これは裁判所での審理の期間で、弁護士への相談や、運営者の対応を待つ時間は含みません。裁判所に納める手数料は、開示命令・提供命令・消去禁止命令の申立てごとに1件1,000円(相手が複数ならその人数分)で、郵便代や弁護士に頼む場合の費用は別にかかる点も覚えておきましょう。
記録が消える前に早めに相談する
回線会社の記録の保存期間は、ガイドラインの解説で「少なくとも3〜6か月程度」が望ましいとされているものの、事業者ごとに違います。東京地裁民事第9部の裁判官は、プロバイダの保存期間が過ぎて目的を遂げられないことも少なくないと書いています。
被害に気づいたら、書き込みのURLと日時を記録し、早めに弁護士や相談窓口に相談しましょう。総務省の委託で運営される違法・有害情報相談センターは、書き込んだ相手を特定する方法について助言しています。
IPアドレスを知られたときに起こりうること
IPアドレスを知られて起こりうるのは、回線を狙った攻撃や、おおよその地域を推定されることです。IPアドレスだけで家や氏名が分かるわけではないため、「IPを抜いた」と言われても過度に心配する必要はありません。
回線を狙ったDDoS攻撃の対象になりうる
DDoS攻撃は、総務省の説明では、複数のコンピュータから大量の要求を送りつけて、相手のサーバーやネットワークを使えなくする攻撃です。オンラインゲームなどで相手にIPアドレスが見える場合、その回線が狙われることもあるでしょう。
ゲームの運営会社の中には、通信を中継してIPアドレスを相手に見せない仕組みを使うところもあります。Valveは自社の中継の仕組みについて、IPアドレスが明かされないためDoS攻撃から守れると説明しています。
機器はIPを知られなくても常に探られている
インターネットにつながる機器は、IPアドレスを個別に知られていなくても、機械的な調査を常に受けているのが実情です。情報通信研究機構(NICT)のサイバー攻撃観測網NICTERの2025年の観測では、1つのIPアドレスあたり年間約250万のパケットが届き、その約55%が調査目的と推測されるものでした。
そのため、IPアドレスを知られたかどうかよりも、ルーターや機器の更新、パスワードの管理のほうが大切です。ルーターの管理画面のパスワードを初期設定のままにしていないか、確かめておきましょう。
「IPを抜いた」と言われても家は分からない
SNSやゲームで「IPを抜いた」と言われても、IPアドレスだけで家や氏名を知ることはできません。分かるのは回線会社とおおよその地域までで、契約者にたどり着くには裁判所の命令などの法的な手続きが必要です。
米国では2016年、場所を絞れないIPアドレスに割り当てられた既定の地点にあった農家に、無関係な人が繰り返し訪れる問題も報じられました。脅しや嫌がらせが続く場合は、警察の相談窓口に相談してください。
IPアドレスを知られにくくする方法と限界
VPNを使うと相手に見えるIPアドレスはVPNのものに変わりますが、ログインやCookieなどで本人と結びつくことは防げません。IPアドレスを隠すことと匿名になることは別だと理解しておきましょう。
相手に見えるIPアドレスを変える主な方法と、その限界は次の表のとおり。
| 方法 | 相手に見えるIP | 主な限界 |
|---|---|---|
| VPN | VPNサーバーの番号 | VPN会社には通信が見える |
| ルーターの再起動 | 変わることがある | 固定IPの契約では変わらない |
| 別の回線に切り替える | その回線の番号 | その回線会社の記録は残る |
手順はIPアドレスを変更する方法で詳しく解説しました。
VPNを使うと相手に見える番号が変わる
VPNを使うと、サイトやゲームの相手に見えるIPアドレスは、自分の回線ではなくVPNサーバーのものになります。米国の電子フロンティア財団(EFF)の説明でも、VPNはIPアドレスを隠すもの。
ただしEFFは、VPN会社からは通信がすべて見え、VPNは匿名化のための道具ではないとも明記しています。VPNでIPアドレスがどう変わるかは、VPNとIPアドレスの解説で確かめてください。
ログインやCookieでは本人とつながる
IPアドレスを変えても、SNSやゲームにログインすれば、そのアカウントの持ち主として扱われます。EFFは、GPSやCookie、追跡用の画像なども追跡に使われうると説明しています。
電話番号やクレジットカード、ワンタイムパスワードによる本人確認も、IPアドレスを変えただけでは切り離せません。プロフィールや投稿の写真に住んでいる場所が分かる情報を載せないことも、身を守るうえで大切です。
書き込みやダウンロードは特定されうる
VPNを使っても、違法な書き込みやダウンロードをしてよいことにはなりません。総務省がプロバイダに任意で回答を求めたアンケートでは、2024年にプロバイダが受けた発信者情報の開示請求は154,484件にのぼり、その大部分は裁判所を通さない請求でした。
総務省の資料によると、その約95.6%は、ファイル共有ソフトを使ったアダルト動画の著作権侵害の事案です。VPNは、公共Wi-Fiで通信を暗号化して守ることや、プライバシーのために使うものと考えましょう。
IPアドレスの特定でよくある質問
IPアドレスの特定について、よく迷う点を4つの質問にまとめました。
IP検索サイトで相手の住所は分かる?
IP検索サイトで分かるのは、回線会社の名前とおおよその地域までです。位置情報のデータを提供するMaxMindも、家庭や個人、番地を特定できるほど正確にはならないとしています。
誹謗中傷を受けたらどこに相談する?
書き込みの削除や相手を特定する方法は違法・有害情報相談センターに、削除については法務省の「みんなの人権110番」(0570-003-110)にも相談できます。命に関わる脅迫などは、最寄りの警察署か110番に通報してください。
IPv6だと特定されやすい?
IPv6でも、IPアドレスだけで住所や氏名が分からない点は同じです。端末が一時的なアドレスを作って変える仕組み(RFC 8981)もありますが、変わるのはアドレスの後半だけで、前半は家ごとに同じ番号が続くとRFC自身が説明しています。APNIC Labsの計測では、日本のIPv6対応率は2026年10月時点で約62%で、IPの確認サイトでは2種類の番号が出ることもあります。
家族のWi-Fiで書き込まれたらどうなる?
開示の手続きで分かるのは回線の契約者の氏名や住所で、実際に書き込んだ人と同じとは限りません。家族や来客とWi-Fiを共有するなら、パスワードを必要以上に広めないようにしましょう。
まとめ
IPアドレスから一般の人に分かるのは回線会社の名前とおおよその地域までで、番地や氏名は分かりません。個人までたどれるのは記録を持つ回線会社で、本人の同意や、裁判所の命令・令状など法律にもとづく手続きを経たときに開示されえます。
書き込みで被害を受けたら、記録が消える前に、URLと日時を控えて早めに相談窓口や弁護士に相談しましょう。「IPを抜いた」と言われて不安なら、まずルーターのパスワードと機器の更新を確かめてください。
参考文献
- 総務省「プロバイダ責任制限法の一部を改正する法律(概要)」
- 総務省「発信者情報開示ワーキンググループにおける検討の進め方について(案)」(2026年6月1日)
- 総務省「インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)」
- 総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」用語集(あ行)
- 総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」用語集(英数字)
- 総務省「『動画をダウンロードしただけ』が著作権侵害に?」
- JPNIC「WHOISとは」
- MaxMind「Geolocation Accuracy」
- MaxMind「Using MaxMind's accuracy radius」
- Poese ほか「IP geolocation databases: unreliable?」(2011年)
- 日本インターネットプロバイダー協会「IPアドレス共有時における発信者情報開示と現状の課題」(2015年)
- 個人情報保護委員会・総務省「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインの解説」
- e-Gov法令検索「情報流通プラットフォーム対処法」
- e-Gov法令検索「刑事訴訟法」
- 東京地方裁判所「発信者情報開示命令事件」
- 東京弁護士会 LIBRA 2025年4月号「『発チ事件』最前線」
- 違法・有害情報相談センター
- 法務省「インターネット人権相談受付窓口」
- 警察庁「サイバー事案に関する相談窓口」
- Steamworks「Steam Datagram Relay」
- NICT「NICTER観測レポート2025」
- Ars Technica「Kansas couple sues IP mapping firm」(2016年8月10日)
- EFF Surveillance Self-Defense「Choosing the VPN That's Right for You」
- RFC 8981「Temporary Address Extensions for Stateless Address Autoconfiguration in IPv6」
- APNIC Labs「IPv6 Capable Rate by country – Japan」